本声明の目的
プライマリ・ケアの目的は,疾病の治療のみではなく,地域社会における健康でその人らしい生活の維持である
▼ 引用文献
1) WHO. Technical Series on Safer Primary Care: Patient engagement. Geneva: World Health Organization. 2008. [not revised; cited 22 Feb 2022]. Available from: https://www.who.int/publications/i/item/9789241511629
.個人がおかれた社会環境の違いによる健康格差への対応は,本学会が最も重視すべき課題の一つである.そこで,健康格差に対する日本プライマリ・ケア連合学会の見解をここに声明する.
健康格差とは,地域や社会経済状況の違いによる集団における健康状態の差と定義される
▼ 引用文献
2) 厚生労働省.健康日本 21(第 2 次)の推進に関する参考資料.平成 24 年 7 月 厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会 次期国民健康づくり運動プラン策定専門委員会.東京:厚生労働省.2012. [not revised; cited 22 Feb 2022]. Available from: http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/dl/kenkounippon21_02.pdf
.つまり,収入や学歴,教育,居住地,性別,国籍/人種など,健康に影響を及ぼす様々な社会的要因 (健康の社会的決定要因:social determinants of health, SDH)こそが,健康格差の原因である(図1)
▼ 引用文献
3) Dahlgren G, Whiteheal M. Policies and strategies to promote social equity in health. Background document to WHO- Strategy paper for Europe. 1991 Sep. [not revised; cited 22 Feb 2022]. Available from: https://core.ac.uk/download/pdf/6472456.pdf
.世界では 2019 年時点で依然として国による平均寿命に約35歳の格差が存在する
▼ 引用文献
4) WHO. World Health Statistics 2020: Monitoring health for the SDGs. Geneva: World Health Organization. 2016. [not revised; cited 22 Feb 2022]. Available from: http://www.who.int/gho/publications/world_health_statistics/2016/en/
.日本でも 2015 年には都道府県間で男女とも平均寿命・健康寿命共に3歳弱の格差が存在することが示されている
▼ 引用文献
5) Nomura S, et al. Population health and regional variations of disease burden in Japan, 1990-2015: a systematic subnational analysis for the Global Burden of Disease Study 2015. Lancet. 2017 Sep 23;390(10101):1521-1538. doi: 10.1016/S0140-6736(17)31544-1. Epub 2017 Jul 19.
このような格差の社会的な原因は個人の努力で容易に変えられるものではないため,健康格差の縮小は社会として取り組むべき課題といえる.世界保健機関(WHO)は,健康格差について「単に差があるという価値中立的なものではなく,その格差を縮小・是正するべきという価値判断を含意する」としている
▼ 引用文献
6) CSDH. Closing the gap in a generation: health equity through action on the social determinants of health. Final report of the commission on social determinants of health. Geneva: World Health Organization. 2008. [not revised; cited 22 Feb 2022]. Available from: http://who.int/social_determinants/thecommission/finalreport/en/
.
近年,世界経済の不安定化や世帯構成の変化および新興感染症の流行を背景に,健康格差の拡大が懸念されている.日本では社会保障制度の機能拡充が追い付かず,ひとり親世帯の貧困割合が約50%にのぼるなどといった社会的な課題が現前しており,急ぎ対策を行う必要がある
▼ 引用文献
7) 厚生労働省.2019 年 国民生活基礎調査の概況.Ⅱ 各種世帯の所得等の状況.東京:厚生労働省.[not revised; cited 22 Feb 2022] Available from: https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/03.pdf
.プライマリ・ケアの現場においても,経済的困窮などの社会的困難のために自ら受診を躊躇する事例や,劣悪な生活環境の中で健康を損なっている事例に出会うことは珍しくない
▼ 引用文献
8) Funakoshi M, et al. Socioeconomic status and type 2 diabetes complications among young adult patients in Japan. PLoS One. 2017 Apr 24;12(4):e0176087. doi: 10.1371/journal.pone.0176087. eCollection 2017.
しかし,患者の社会的背景を十分に踏まえたケアの提供は必ずしも行われていない.また,患者の抱えている社会的困難を知り,評価する標準的な方法は普及していない.制度上の支援策も十分とはいえず,既存の制度も十分に認知・活用されていない
▼ 引用文献
9) 日本学術会議. 提言 わが国の健康の社会格差の現状理解とその改善に向けて.東京:日本学術会議;Sep 2011. [not revised; cited 22 Feb 2022] Available from: http://www.scj.go.jp/ja//info/kohyo/pdf/kohyo-21-t133-7.pdf
.
本声明は,健康格差に対する日本プライマリ・ケア連合学会としての立場を表明するものである.ここに,健康格差に関する当学会の法人としての行動指針,および学会員の行動指針を示す. 本声明により,日本プライマリ・ケア連合学会が,その社会的責務として,公正な健康社会の実現に向けて川の上流に分け入り,健康格差の是正を進めることを宣言する.